よく晴れたあの川べりで

昨夜、ユキの夢を見ました。

ユキは私が小学生の頃に飼い始めた犬です。
SoftBankのお父さんと同じ北海道犬で、当時住んでいた村の駐在さんの所の北海道犬が、ある年のクリスマスに数匹の子犬を産み、そのうちの一頭がご縁があって我が家に来ました。女の子で、血統書には「悠希姫号」の名前がついていて、ユキと呼ぶことになりました。
もらい受けたのは生後一ヶ月目くらい。
お迎えに行って、母が家まで抱えて歩く腕の中を覗き込んだら、子犬はまだ耳が折れていて、横顔の長い睫毛にひらひらと雪が降りかかっていました。

昨夜の夢の中で、ユキはなぜか美容院に預けられていて、迎えに行ったら庭先の檻の中で、地面でも掘り起こしたのか泥んこになっていました。
うわーこんなに泥だらけなのに抱きつかれたら汚れるなあと思いながら、久しぶりの再会に「ユキ!ユキ!」と大声で呼んだら、ユキは私を見て嬉しそうにその場でぐるぐる回って、私は、さあお家に帰ろうねと………

と、この辺で目が覚めました。
夢というのはなぜかいいところで目が覚めますね。

ユキは私が内地の大学に行っているうちに亡くなり、母から電話でそれを知らされました。父と母で火葬場で骨にして、家の近所の防風林に埋めたそうです。その防風林も今は宅地になってしまいました。
実家の玄関の横にユキの犬小屋がありました。
帰ればそこに姿があるような気がずっとしていて、不在に慣れたのは本当に最近のことです。

 

大学浪人をしていた頃、毎日ユキと一緒に近所の河原まで散歩に行きました。
草が生茂った人も通らぬ原野みたいな河原でリードを放してやると、解き放たれたように一目散に駆けて行って、虫でも追いかけてるのか、ずっと楽しそうにあちこち走り回っていましたが、「ユキ!」と大声で呼ぶと振り向いて、まっしぐらに駆けてきたものでした。
何がそんなに嬉しいのか。なぜそんなに一所懸命走ってくるのか。
呼べば必ず飛んで来るのです。絶対に。

私は今や自他共に認める猫派で、呼んでも来るどころか振り向きもしねえ猫様をありがたがっている有様です。
でも高い空がよく晴れたあの午後の川べりで、大声で呼ぶ声に、草いきれの中を一直線に駆けて来る姿を思う時は、ひそかに犬派に戻っているのです。